俺が言った『時間』の意味を、紫は理解していない。



今はそれでいい。

君に打ち明ける決意が固まるまで…

何も気付かずそのままでいて……




 ◇


駅を出て少し歩き、写真展を開催している百貨店に着いた。



柏寮を出て結構な距離を、慣れないパンプスで歩いた彼女を心配したが、


「大丈夫、休憩は要らないよ。
早く写真展を見に行こう!」

張り切る様子を見ると、体調に問題はないようだ。




紫が練習したいと言うので、11階までエレベーターではなくエスカレーターで上る。



今日は日曜日、どの売り場も大勢の買物客で賑わいを見せていた。



11階の催事場に着きエスカレーターを下りると、

『全国うまいもん市』と書かれた旗が、真っ先に目に入ってくる。



催事場では写真展の他にも…と言うより、これがメインイベントみたいだ。



目指す写真展はこのフロアの奥の方で、

与えられたスペースは『全国うまいもん市』の6分の1程度。




写真展に行く為に、紫を支えながら賑わうフロアを進む。



威勢のいい出店者の掛け声や、買い求める客の声。

列を作るおばちゃん達に、焼き上がりを知らせるベルの音。



そこかしこから旨そうな匂いが漂ってきて、つい足を止め、覗き込んでしまう。




「帰りに瑞希に何か買って行くか。
アレなんてどう?宇都宮の餃子」




「でも瑞希君は、〇〇のケーキがいいって言ってたよ?」




「それも買うけど、餃子も食べたい」




「アハハッ 流星が食べたいだけじゃない!」




「バレたか」





夕飯は餃子にしようと話して『全国うまいもん市』を抜けた。



目的の写真展は、催事場の一角でひっそりと展示している小規模な物。



入場料は掛からず、自由に出入りしていい様だ。



入口に簡素だがデザイン性が高い縦看板が立てられ、

『我妻ミチロウ〜彩の写真展〜』

と書かれている。