それは…

彼女ではなく、俺の心が弱いせいだろうか……



大丈夫だ…強い紫なら大丈夫なんだ……

そう信じる一方で、一抹の不安を拭えずにいる。



打ち明けて「嫌だ」「怖い」と泣かれるのを、心の片隅で怖れる俺がいる……





「流星、流星ってば!
この駅だよね?下りないの?」




「あ、ああ…着いてたのか…ゴメン、紫に見惚れてぼんやりしてた」




「もう…すぐそういう事言う……」




「あれ…照れてる?
ハハッ 紫は本当に可愛いなぁ」




「からかわないでよ!
ほら早く、ドア閉まっちゃうから!」





下りるのが遅れた為、乗り込んで来る人波を掻き分け、電車を下りた。



初めは紫の手を引いていたけど、人にぶつかり彼女がバランスを崩してしまったので、

途中から抱き抱える様にして、ホームに下り立つ。




「ありがとう。
やっぱり一人で人混みの中は、まだ無理みたい……」




苦笑いをした紫が、淋しそうな、悔しそうな声を出す。



片麻痺の後遺症について、同情的な言葉をかけられても、

「平気だよ。歩けるし特に不自由も感じないし、私は気にしてないよ」

いつも明るく振る舞う紫。



俺の前でも、クラスメイトの前でも、その明るさと前向きな態度は変わらない。



麻痺に対して否定的な気持ちは本当にないみたいだが、

こうやって、出来そうで出来ない事にぶつかると、やはり葛藤を感じるのだな。

当たり前か……




微笑みに悔しさを滲ませる、紫の右手を取った。



まだ字を書く握力も戻っていないその手をそっと握ると、紫も微かな力で握り返してくれる。




「これからは2人でもっと沢山外出しよう。

リハビリを兼ねたデート。
紫に自信がつくまで、俺が支えるから。

だから焦らないで。
ゆっくりでいい、まだ時間はある…」




「時間? そうだね。

東京にいる時間は、まだ1年以上あるもんね。

フラノに帰ったら人混みとか関係ないけど、東京の街中を一人で歩ける様になれば、どこだって歩ける自信はつくよね」