病室の窓に目を遣ると、夕日がビルの谷間に沈む所だった。
きっと今頃、柏寮はオレンジ色の光りに包まれて、
古びた木造の外壁も、
使い込まれて滑らかな廊下の床板も、
みんな親密な色に染められているのだろう。
久しぶりに穏やかな気持ちになれた。
流星は右頬の笑窪を凹ませ、嬉しそうに笑っていた。
瑞希君もツインテールを揺らしながら、可愛らしい笑顔を向けてくれる。
2人の頬が若干赤い所を見ると、私もきっと、最高の笑顔で笑っているのだと思う。
後で大樹に電話して、今の幸せな気持ちを聞いて貰おう…
柏寮に帰ると言ったら「もう早?」と驚くよね…
驚いて、そして誰より喜んでくれるだろう。
瑞希君と流星が、教えてくれた事も伝えたい。
あいつ馬鹿だから
「難しい言い方すんな、分かるように言え」
って言われるかも知れないけど。
◇
翌日、朝の回診時、
担当医に退院希望を伝えた。
「まだ早い」と言われるかと思ったけど、
「そうかい、じゃあ来週の月曜日にしようか」
とあっさり許可してくれた。
母に電話すると、早過ぎる退院に流石に驚き、心配していたけど、
最後は私の気持ちを尊重して許してくれた。
大樹は勿論すごく喜んでくれた。
『お前の回復力すげーな。
倒したと思ったら更にパワーアップして、ライフ満タンになってるボスキャラみたいだな』
「何に例えてんのよ…全くあんたはゲームばっかりやって……
柏寮に帰っても何をするにしても時間が掛かるから、朝あんたを起こしてる暇ないからね?
ちゃんと自分で起きなさいよ?」
『分かってる。
3学期始まってから、まだ3回しか遅刻してねーよ。
スゴイだろ?』
「3回もだよ…バカ」
『紫…退院したら大変だと思うけど頑張れよ。
あれだ、出来ない事は流星かオカマにやらせればいーんだ。
俺は何もしてやれねーけど…
何か出来ることあるかな……
なぁ、俺に出来る事ってある?』