「無理じゃない。

歩ける様になるって先生も言ってたし、早く歩きたいの。

自力で歩ける様にならないと、柏寮に帰れないじゃない」




「柏寮がいずれ無くなると聞いたから、焦って早く帰ろうとしてるのか…

だけどその期日はまだ決まってないだろ?

今すぐ帰ろうとしなくても…」




「柏寮のタイムリミットだけじゃないよ。

亀さんとたく丸さんの卒寮前に帰りたい。

また5人で柏寮で生活したい!」




「そっか…けど、無理するのは良くないよ」




「無理じゃない、まだやれるよ!」




「いや、やり過ぎだろ。
ほぼ一日中歩いてるじゃないか。

ほらこれ……」





流星は私の左手を持ち上げた。

目の前に突き付けられた自分の左手は、血豆だらけで汚い。



歩く時にバランスを保持出来ず、どうしても手摺りを掴む左手に負担が掛かってしまう。



元は右利きだったから、学校へ通う為に左手で字の練習にも励んでいた。



手摺りを強く握るせいで出来た沢山の血豆と、

何度も水泡になっては潰れて出来たペンダコ。



今の私の左手は、女子高生と思えない様な酷い有様だった。



流星はそんな私の左手をそっと撫で、両手で包み込んだ。




「もっと俺を頼ってよ。

思い詰める程に早く帰りたいならそう言って。

自力で歩ける様にならないと帰れないなんて、そんな悲しい事言わないでよ」




「流星には沢山助けて貰ってるよ…

十分過ぎるくらいに頼ってるのに、柏寮に戻ってまで面倒見てなんて言えない…


柏寮には手摺りはないし段差も多い。

今の状態で帰ったら、四六時中、介助の手が必要なんだよ。

その度に呼び出してたら、流星自分の部屋にいる暇ないよ?

だからせめて自力で歩ける様にならないと…」




「俺と同じ部屋で生活すればいいじゃないか。

学校も一緒に行くし、中休み昼休みも付き添う。

授業中は座ってるだけだからきっと大丈夫だろ」




「え?ま、待ってよ。

学校に行くのは置いといて、柏寮での生活が…

トイレやシャワーの問題もあるし、私まだ一人でシャワーを使える自信がないし…」




「うん。

トイレは連れて行って、終わるまでドア前で待ってる。

シャワーは一緒に入る」




「ええっ!? やだよそんなの、恥ずかしいよ!」