麻痺のある右足はふにゃっとしている訳でなく、
過緊張の状態にある為、関節は伸びて突っ張っている。
麻痺足に加重は掛けられるから、立位は取れる。
だけど、右足を前に出す事が出来ない。
今の私が可能な歩行の仕方は、
左足を一歩前に出し、右足を腰の回転を使って引き寄せる方法。
“左足で前に進み、右足を引き寄せる”
この表現がいいかも知れない。
しかもそれには、左側に手摺りか介助の手が必要だった。
面会時間中は流星がびっちりリハビリに付き合ってくれるけど、
流星がいない時間、
病棟の廊下の手摺りを頼りに、一人で歩行練習していて、転びそうになった事も何度もある。
それは今まで感じた事のない恐怖だった。
健常な時にはその辺で転んでも「痛っ」と思うだけだけど、障害を負った今は違う。
右側に倒れたなら手を付き床への衝突を避ける事が出来ず、体を強く打ち付けてしまう。
歩く度に「また頭を打ち付けるのでは」と、
恐怖心が常に付いて回る。
それでも私は黙々と歩き続けた。
柏寮に帰る為に。
そんなリハビリの日々、
今日も流星に見守られながら、病棟の手摺りに掴まりゆっくりと歩いていた。
「紫、1時間経ったよ。
一旦部屋に戻って休憩した方がいい」
「もう少し…あの突き当たりまで行ってから…
あっ!」
手摺りを握る左手が汗で滑り、危うく麻痺側に転倒しそうになって、流星に抱き留められた。
「ほら、ふらふらじゃないか。
今日はもう止めて休んだ方がいい。また明日頑張ろう」
「ふらふらなんかしてないよ。
今のは手が滑っただけ。
今日のノルマをまだ達成してないから…
わっ!流星!?」
まだ歩きたかったのに、流星に抱えられ、病室に連れ戻された。
流星は私をベットに寝かせると、起き上がらない様見張るかの様に、
私の横にどっかりと座り込んでいる。
「何でそんなに無理するんだよ。焦ってるの?」