流星の側で前向きに一歩ずつ地道な回復を…
この時はそう思っていた。
医療者からも
「きっと歩ける様になるから、焦らずゆったりした気持ちでリハビリしていこう」
と言われていたし、
焦る気持ちは無かったけど…
そうも言ってられない事に気づかされた。
3日前にお見舞いに来てくれた亀さんは、申し訳なさそうにこう言った。
「トイレとシャワーと玄関の段差…
車椅子で生活出来る様、ここをどうにかして貰えないかと、学校側に嘆願してみたんだが…
無理だったよ。力不足ですまない。
寮生も年々減る一方だし、築50年を経過してるから、取り壊す計画も上がっているそうだ。
改修の話しどころか、もしかすると月岡さんが卒業する前に柏寮は無くなってしまうかも知れない……」
亀さんはついこの間センター試験を終えたばかりで、これから前期後期と入試を控えている。
そんな大変な最中、私の為に動いてくれた事に驚かされ、感謝した。
そして、何としても柏寮に戻りたいという思いも強くなった。
柏寮での暮らしにはタイムリミットがあるんだ。
その内戻れたらいいなんて、悠長な事は言ってられない。
一日でも早く戻り、夕日に染まるノスタルジックな柏寮を見たかった。
柏寮で流星と瑞希君と笑っていたかった。
亀さんとたく丸さんは3月で卒寮してしまう。
それまでに少しでも早く戻って、また皆で楽しい時を過ごしたかった。
その為には、早く自力で歩ける様にならないと。
“自力歩行”それが柏寮で生活する為の最低条件だと思った。
今は一人で立ち上がる事も出来ないが、目標は後半月で歩けるようになる事。
1月中に戻れれば、丸々一ヶ月間は5人揃って柏寮で生活出来る。
◇◇
それからは毎日が必死だった。
リハビリ室で理学療法士さんと2時間のリハビリを終えても、
病室で、廊下で、訓練を続けていた。
やがて支えが無くても一人で立位を取れる様になり、喜びに包まれた。
でも…この先が難しかった。