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1時間の短い面会時間は終わり、皆は帰って行った。
母は当分の間、ウィークリーマンションに宿泊し、病院通いすると言った。
父と青空だけ今日の飛行機で、フラノに帰る。
流星は毎日来るからと言い、少し淋しそうに帰って行った。
大樹も東京に残りたいと言ったけど、宿泊費の心配もあるから、父と一緒に帰らせた。
滞在費の心配と言うのは建前で、本音は大樹の精神面の心配をしていた。
私がいくら「大樹のせいじゃない」と言っても、
寝たきりの状態を毎日見せては、きっと自責の念を捨て切れないだろう。
今はフラノからメールをくれるだけの方がいい。
頭も右手も動かせず、
寝たまま左手一つでスマホを操作するのは難しいけど、
読むだけなら簡単に出来るし、短い文章なら打てると思う。
返信を流星に頼んだっていい。
次に会う時は、もう少しましな状態になって、大樹を安心させてあげたい。
◇◇
絶対安静の一週間が過ぎ、脳神経外科の一般病室に移されてから更に10日が経とうとしていた。
頭部も右腕も数日前に抜糸が済み、今はガーゼも包帯も必要ない。
右腕右足の麻痺は変わらないけど、一人でベット上で起き上がり、座っていられる様になった。
院内の移動は車椅子を使い、
支えがないと立っていられないので、シャワーやトイレは看護師さんに介助して貰っている。
まだ一人で身の回りの事は出来ないが、ナースコールですぐに看護師さんが来てくれるので、不自由でも不便は無かった。
入院生活にも慣れたので、長い事付き添ってくれた母に
「家に帰っても大丈夫だよ」と言った。
母も家の事が気になっていたみたいで、
心配しながらも、また来ると言い、一旦フラノに帰って行った。
母がいた間も帰ってからも、
流星は感染予防のマスクをして、毎日病院に通ってくれている。
面会時間は午後2時から。
待ち兼ねていたかの様にいつも2時調度に来る。
後数日で冬休みが終わり3学期が始まるけど…
学校はさぼらないでと言っても、きっと2時に来るんだろうな……
まぁ、出席日数は十分だし、勉強の遅れなんて、成績優秀な流星には関係ないからいいけど…
今日もいつもの様に会いに来てくれた流星は、
すっかり定位置となったベットサイドのパイプ椅子に座り、
私の地道なリハビリを見守っていた。