“触感が気持ちいいから、これからも同じ髪の長さで”
そう言うと、大樹は喜びかけたが、すぐに暗い顔をした。
「それってさ…これからも側に……
いや、俺にはもうお前の隣にいる資格はねーよな……
紫…もういいからな…
今まで縛り付けて悪かった。
もう…いい。紫が生きてるだけでいい。
流星と一緒に…生きていけばいい……
今までありがとう。
俺は…紫から離れるよ……」
「大樹……」
涙を拭いて精一杯の笑みを浮かべるその瞳は…
切な気に濡れていた。
大樹がどれだけ私を好きなのか…今はそれを痛い程分かっている。
そんな大樹が、身を切る思いで言ってくれた言葉……
『俺は紫から離れる…』
それは…流星を受け入れた時点で、私が覚悟していた言葉でもあった。
覚悟していたけど…
実際に口にされると、重たく響いて、胸が苦しい。
これで本当に…大樹とはさよなら…
私達が積み上げてきた歴史が、16年で終わる…
大樹の涙を止めたばかりなのに、今度は私が泣きそうになった。
触り心地のいい頭から手を離した時、
それまで静観していた流星が「待って」と口を挟んだ。
「紫、また君は自分の心に嘘をつくの?
本当は大樹と離れるのは嫌なんだろ? ずっと側にいて欲しいんだろ?
“離れないで”そう言えばいいじゃないか」
「そんなワガママ言えないよ…」
「ワガママじゃない。
君が自分を偽り苦しむ方が、今の大樹にとって辛いはず」