「それは違うよ。
お願い自分を責めないで、大樹のせいじゃない。
これは私の自業自得の結果なんだよ」
「…何言って…
俺の矢がお前を傷付け…」
「違うって。
傷付けたんじゃない。あの時大樹は、私を守ってくれたんだよ」
「守る…?」
「そう。
矢を打ち出す寸前に、私が勝手に飛び出したから、矢が当たったのは仕方ないんだよ。
でもね? 流星の心臓を狙っていたなら、どうして私の背中の真ん中に当たらなかったの?
致命傷になってもおかしくないのに、矢は腕を掠って廊下の壁に突き刺さったんだよ。
不可能にも近いあの一瞬で、私の姿を視界に捕らえると同時に、あんたは矢の軌道を逸らしてくれた。
それは誰にでも出来ることじゃない。
大樹だから出来たんだよ。
それがないと、今頃私は、もっと酷い状況だったんじゃないかな…
あの時私の命を守ってくれたのは大樹だよ。ありがとう」
「……… 紫…… 何バカな事言ってんだよ……
俺は……
ダメだ…言葉が見つかんねぇ……」
唇を噛み締めボロボロ涙を流す大樹は、まるで小さな子供の様に見えた。
小学校の高学年になったくらいから滅多に泣かなくなったけど、
小さい頃の大樹は結構泣き虫だったよね。
悪戯してはおばさんに頭を叩かれ…
こんな風に唇を噛み締め、声を出さずに泣いていた。
それを慰めて一緒に謝りに行ってあげるのは、いつも私の役目だった。
大樹…
弟みたいな大樹……
いつも隣にいた大切な人……
「ほら、もう泣かないの。
あんた今すっごい不細工な顔になってるよ?
鏡見てごらんよ、自分の顔見たら笑えるから。アハハッ」
「るせぇ…」
大樹は片手で顔を覆い、暫く静かに涙を流していた。
私はそんな大樹の頭を、左手で撫で続けていた。
撫でる度に七分刈りの短い髪の毛が、手の平にショリショリとした感触を与え、少しくすぐったくて気持ちいい。
大樹の好きな所は沢山あるけど、その一つは何年経っても変わらない、この短い髪の毛の感触かも。
「大樹、髪伸ばさないでね?」
「何で?」
「撫でると気持ちいいんだよ、この長さが」