正直言うと、まだ頭が鈍よりと重たく、締め付けられる様な痛みも少しはあった。


熱っぽい気もするし、少し喋っただけなのに疲労も感じる。



だけど、大樹をこのままにしておけない。


話すべき事を後回しにしては、大樹が立ち直れない。



家族が出て行き数分後、
流星に背中を押され、大樹が入ってきた。



流星よりがっしりした体格の大きな大樹が、

今はがっくりと項垂(ウナダ)れて肩を落とし、

いつもより小さく見えた。



歩き方もフラフラして、
流星に方向をコントロールされていないと、物にぶつかってしまいそうだった。



流星に「前を見て歩いて」と言われても、

心ここにあらずと言った感じで、言葉が届いていない。



『廃人みたい』と表現した母の言葉は適切だった。



でも、誰の声も大樹に届かないとしても、私の声なら届く自信があった。



今大樹に必要な言葉をあげられるのは、私だけ……



ベットの足元まで近づいてきた時

「大樹」と呼び掛けると、

ビクッと体を震わせて立ち止まり、パッと顔を上げて私を見た。



目が落ち窪んで、顔色は土気色をしている。



憔悴しきった顔…

それを見て、大樹がどれ程の衝撃を受けたのかを理解した。




 「大樹」



もう一度呼び掛けると、
どろんとした、死んだ魚の様な瞳に光が戻り、

一気に涙を溢れさせた。



ガクンと膝が折れてその場に崩れ落ち、
床についた両腕がふるふると震えている。



大粒の涙が白い床に水溜まりを作っていく。



私の死を怖れ、後悔に打ちのめされたその姿は、見ていて苦しくなる程哀れだった。



「大樹のせいじゃない」
なんて言葉だけじゃ、

こんなになってしまった大樹には届かないかも。

何て言ってあげたらいいのか……




「大樹、こっちに来て。

私まだ動けないからそこまで行けないよ。

顔を近くで見たい……」




泣き崩れている大樹を、流星が支えて枕元まで連れて来てくれた。



大樹は床に跪(ヒザマ)づく。

震える手を伸ばし、恐る恐る私の頬に触れた。



その手に左手をそっと重ねる。




「大樹の手…
冷たくて気持ちいい……

大樹…ごめんね…

辛かったよね…

私、あんたを苦しめてばっかり……」




「なんで…紫が謝んだよ……俺がお前を…こんな…」