◇◇◇
離れて行きそうな魂を、この世に留めてくれたのは、
あの夏の約束と、流星の声かも知れない…
うっすら目を開ける。
白い天井と、飾り気のない事務的な照明の光りが見えた。
行き交う白衣の人達。
寝かされているベット周囲には、医療物のドラマで見る様な、輸液ポンプが2台と点滴パックが3つ。
私の心拍の波形が、モニター上を音もなく流れて行く。
医療機器がベット周囲を取り巻いて、体から複数のチューブが伸びていた。
口と鼻をすっぽりと覆う透明な緑色の物は…酸素マスクかな……
はっきりしない重たい意識の中でも、ここが病院のICUであると理解した。
三途の川や花畑じゃなく、病院にいるという事は…
生きてるみたい…
良かった…
それだけ理解した所で、吸い込まれる様に意識が遠退き、再び夢の世界に戻って行った。
それを数回繰り返し、何度目かの覚醒で、不安気に覗き込む母の顔を見た。
眼球だけ動かし視線を左右に振ると、母の横には父と青空、
ベットの左サイドには流星の顔が見えた。
「紫…紫!? 分かる?
お母さんだよ?」
「紫!」
「姉ちゃん!」
家族は口々に私の名を呼んでくれた。
フラノから駆け付けてくれたんだ……
ということは、今日は階段を落ちた日の翌日かな…
もしかしたら、数日経っているのかも。
呼び掛けに返事をしたいが、声が出せなかった。
体も動かない。
頭を強く打ち付けたから、脳がダメージを受けたのか…
このまま眼球しか動かせないのは困る。
「動け、動け」と念じながら意識を集中させると、左手の人差し指がピクリと動いた。
それをきっかけに、神経と筋肉組織は動かし方を思い出した様で、
左手をゆっくりと持ち上げる事が出来た。
その手を流星が優しく包んでくれる。
「紫… 良かった…」
流星は私の手の甲に口づけて、静かに涙を流していた。
想いの詰まった熱い涙…
随分と流星を不安にさせてしまったみたい……
流星だけでなく家族も皆、目を潤ませて私を見ていた。