それだけは止めて欲しい。

こうなったのは決して大樹のせいじゃない。



夏休みに大樹に2択を迫られた時、答えを間違えた私が悪い。



大樹が離れて行くのが怖くて…

あの時重大な選択を間違えてしまった。



そして大樹離れ出来ない弱い私の心が、こんな風に彼を狂気に走らせてしまった。



今更後悔しても遅いけど…

そしてもう声なんて出せないけど…一言謝りたかった。




大樹…ごめんね……



こんな風に追い詰めてしまってごめんね。



一度は受け入れておきながら、流星への想いを捨てられなくてごめんね。




もうダメかもしれないけど…

これからは側に居続けてなんて言わないよ……





意識が闇に落ちようとしていた。



音も光りも、温度も時の流れも…何もない『無』に飲み込まれようとしていた……



やっぱり…

私はこれで死ぬんだ…




そう覚悟した時…

流星の綺麗な薄茶色の瞳が、一瞬だけ闇の中に浮かび上がって…

愛しい声が、途切れ途切れに聴こえた気がした…






『紫……駄目だ……逝ったら駄目だ……

紫……戻ってきて…お願いだ……


…約束を守らせてくれよ……

フラノに戻って……君と…もう一度…あの景色を見る約束が…

まだ残っているじゃないか……


…頼むから…逝かないで…………紫…愛してる……』






約束… そうだ……


5年前の夏…

流星は…

もう一度ラベンダーと星空の…あの景色を一緒に見たいから…

フラノに戻るって約束してくれたんだ……



あの夏の風景を…流星と一緒に……



約束したんだ…待ってるって……



死んでしまったら…約束を果たせない……



嫌だ…死にたくない……

まだ死ぬ訳にはいかない……



神様…お願いです…

後少しだけ生きる時間を下さい……



流星と一緒にあの景色の中に立たせて下さい……




『生きたい…』

何も考えられなくなる前に、そう強く念じていた。



そして意識は、闇の中に落ちて行った……