大樹までの、たった数メートルの距離が、何故かとてつもなく遠く感じた。



焦りの為に時間認識がおかしくなってしまったのか、

必死で走る自分の動きだけがスローモーションの様に感じ、

水の中を走るかの様に、足が前に進んでくれない。



まさに矢を放とうとしている大樹の表情に、躊躇いはなかった。


怒りで我を忘れている訳じゃない。


守りたい物には形(ナリ)振り構わず全力を注ぐ…

大樹はそんな真っすぐなバカなんだよ。



流星は大樹を分かってない。

煽っては絶対にダメなのに
「打てばいい」なんて…




キリキリと張り詰めた弦から矢が打ち出される寸前…

コンマ数秒前に…

私は大樹の横を走り抜け、階段の上段を蹴り、空中に身を躍らせた。



目線の先には驚く流星の顔。



空中で精一杯広げた両腕の、右肩から上腕の中程にかけて、ステンレスの鋭い矢尻が走り抜けた。



瑞希君から借りた白いブラウスと皮膚が切り裂かれ、右腕に強烈な熱を感じた。



皮膚を切り裂いた矢は軌道を大きく逸らし、

階段横の壁に「ズダン」と音を立て、斜めに突き刺さった。



体がまだ空中を飛んでいる内に、壁に刺さった矢を視界に捕らえ、ホッとしていた。



「良かった…」

そう気を抜いた直後、
体は階段の中腹に頭から強く叩き付けられ…

数段転がり落ち…

流星の腕に受け止められて止まった。



ハンマーで殴られた様な激しい頭痛を感じていた。



頭のどこを打ち付けたのか分からないくらい全体が割れそうに痛み、


溢れ出した鮮血が、額を伝って目に入り込んで、視界を真っ赤に染め上げた。



私の名を叫ぶ流星と視線を合わせると、


驚いている様な…

慌てている様な…

恐怖している様な…


そんな感情を浮かべる流星の瞳もまた…真っ赤に染まって見えた。