大樹と流星の距離は
階段15段分。
矢は文字通り、目にも留まらぬ速さで飛んで行く。
こんな近距離で打たれたら、一歩動く前に心臓を貫かれるに決まっている。
焦る心とは裏腹に、こんな状況で尚も自由にならない私の体。
早く止めないと…
お願い私の体、言うこと聞いて!
自由にならない足を拳で強く数回叩くと、やっと震えが収まった。
急いで立ち上がり、駆け出した。
大樹は流星しか見えていない。
私の方を振り向かない。
左腕で弓を押し、右手でゆっくり弦を引くと、
緊迫した空気の中に、キリキリと弦の張り詰める音が響いた。
的を見つめ矢を放つまでの『動』と『動』の間の、束の間の『静』の時間。
今まではその時の大樹の表情が好きだった。
極限まで高められた緊張感と集中力。
それでいて気負いのない静かな瞳に、美しささえ感じていた。
それなのに、今は血走った瞳で、流星に矢を向けている。
大樹の弓道が…壊れていく…
大樹に人の命を奪って欲しくない。
流星だって
「生きてて良かった」
と昨日やっと言えたばかりなのに、
こんな所で終わりになんてさせられない。