階段下には流星が現れてしまった様で、
大樹の声色と表情が一層険しくなった。
大樹が弓を動かす。
矢をつがえ、弓を頭上で構え様として…
天井にぶつかり、舌打ちした。
和弓は2m以上の長さがあるから、普通の天井の高さで引くことは出来ない。
しかし大樹は足を大きく開き膝を曲げ、天井にぶつからない様にしながら器用に弓を引く。
照準は勿論…流星…
『射手座の弓矢は、蠍座の心臓“アンタレス”を狙ってるんだ……』
あの夏に幼い流星が話してくれた、星座の物語が頭に木霊(コダマ)する…
射手座の大樹と蠍座の流星…
星座の宿命みたいなこの状況…
流星の移植された心臓に矢が刺さり、血飛沫が飛ぶ……
嫌な予感が映像として脳内に描き出され、体が震えた。
「止…め……」
這うように廊下を進んだ。
声が上手く出せないのは、
殴られたせいか、それとも恐怖からなのか。
目眩と、体の震えと、
掠れる声……
体が言うことをきかず、焦る一方だった。
大樹と私の距離は8m程。
階段下の状況は見えないけど、瑞希君も1階にいた様で、大樹を止められる人は私しかいない。
階下から流星を守ろうとする、皆の声が聞こえていた。
その逆に、流星は皆に退いて欲しいと言っている。
「逃げねぇの?いい度胸じゃねーか。
言っとくけど、ただの脅しで弓を構えてる訳じゃねーからな。
流星、良く聞け。
紫は今日フラノに連れて帰るけど、会いに来るな、電話も掛けてくんな。
紫に二度と近付くな。
それを誓えば弓は下ろしてやる。
断るなら…てめぇの心臓を射抜く。
言えよ…紫には二度と関わらねぇって…」
「言わない。紫だけは譲れない。
打ちたいなら打てばいい。
矢は一本…それを避ける事が出来たら、話しを聞いてくれるか?」
「ハッ この距離で、俺が的を外すわけねーだろ」