伊織をただ、抱き締めて。

私が側にいるって。

もっと強く言うのに。


伊織があんなに、ずっと側にいろって、離れるなって言ったのは。

皆、周りからいなくなったからなんだ。



………幸せな家庭で過ごした私には、誰かがいなくなるなんてこと想像出来なかったんだ。


両親は健在だし、卒業しても会える子ばかりだし。
死別はもちろん。
本当のさよならを経験したことがないんだ。



伊織。


会いたいよ。




会いたくて堪らないよ。




ただいまも言わず、部屋にこもると私は机の奥に閉まってあった伊織の携帯を取り出した。


その、真っ黒な携帯を見て胸が軋む。



首の痣はもう綺麗さっぱりなくなった。



出来たら残って欲しかった。

伊織の、残したモノが少なすぎるから。


――――…そんなモノでさえ、私は愛せる気がしたから。






翌朝。



色々考えてたらいつの間にか寝ていたらしい。
寝呆けながら携帯を開くと尚子と学からの着信で埋まっていた。


何事かと思って尚子に電話をかける。