「あ、でもさ」


「………?」

テーブルに肘をついて、聖は私にぐっと近付く。
後ろで他の子が歌をうたっているから、うまく聞こえない。
私も顔を自然と近付けると。

「俺、泉タイプー」

そうやって、女の子を悩殺させそうな100%スマイルを見せた。


「………………」


その一言で、きっと彼は誰にでも言うのだろうと確信して、さっきの私の浅はかな行動を恨んだ。


「ごめん、私人数合わせだからさ。彼氏とかいらないし」


「え?そうなの?」


「うん、いらない。あ、ごめん、私トイレ行ってくる」


「えー?」

ちらっと他の女の子を見ると、男の子と楽しそうに仲良く話をしていた。


いつの間にか、隣同士に座っていたのには驚いたけど。

実際、トイレに行きたかったわけじゃないけど。
彼から離れたくて、抜け出した。


彼氏、作る気ない。か。
やっぱり、未練がましいのかな。


だけど今も、こんなに色鮮やかに伊織を思い出せる。



どうしても彼がいい。