「…久琉斗か…未来…?」



綾介が、



誰にも聞こえないような声で呟いた。



綾介の座る椅子が、



きしんだ音を立てる。



唯一無二の親友か、



綾介にとっての初めての友達か。



未来は、



もともと人見知りだった綾介が



初めて友達になった人物で、



今でも仲が良く信頼でき、



久琉斗は綾介が



世界一の相棒と思っている、親友。



綾介にとっては、



どっちも、大切な人間だ。



…選べない。



「…綾介」



久琉斗が蒼白な顔のまま、



綾介の名を呼ぶ。



綾介はゆっくりと久琉斗の方を向いた。



「…俺、に、送らなくて良い…」



まるで心の全てを



絞り出したような声で、



久琉斗が、



そう、言った。



「…どうせ、俺…生きてても…
意味ないからよ…
深口に支えて、もらえ」



平気な顔を装っているが、



綾介には解っている。



必死で、



生きたいという言葉を



押さえ込んでいることを。



「…久琉斗…」



「なぁ、綾介…」



今度は、別の方から、声がした。



未来の方へ、



ゆっくりと身体を向ける。



「…僕には…メールを…
送ってくれなくて…良い…」



未来がどこか虚ろな目で、



綾介の瞳を悲しげに見つめる。



「間君と僕なら…間君の方が…
生きてる価値がある…だから…」



「なに言ってんだよお前」



久琉斗が未来に言う。



「俺は存在してても、
意味がないから言ってんだよ…!」



綾介はブルブルと震えたまま、



メールの文面を見つめた。



選択肢は二つ?



綾介の頭に、ある選択肢が一つ浮かぶ。



…俺が消えれば、二人は…



そこまで考えてから、



もう、考えるのをやめた。



自分を犠牲にして



二人を助けることを出来る自信が、



これっぽっちもない。



時間はあと、五分。



「なぁ、綾介、深口を選べ…」



「綾介…僕じゃなく…間君を選んで…
綾介が頼れるのは…
間君だけだろう…?」



あと、四分しかない。



決められない。



「…どっちを選べば…」



あと三分。



「綾介、深口を選べってば!」



あと、二分。



「…綾介。間君を…選んで」



あと一分。



どっちが正解?



違う。



正解なんてない。



綾介が送信ボタンを、押した。





♫ピロロロロン♫





綾介の気持ちとは似ても似つかぬ、



軽やかな音。



「…良かった…」



呟いたのは、



メールが届かなかった人物。



綾介がメールを送らなかった人物は、



ニコッと微笑んだ。



「…綾介、ありがと」



その瞬間、