本日の俺も放課後の教室で、野球ではなく、液晶画面の中で野球ゲームをしている。
ゲームだったら、キャプテンに勝てる自信もあるが、現実俺はただの幽霊部員。
髪はまだ、理想の長さまで伸びていない。
「荻野目くん荻野目くん」
いつもの如く俺の名を二度繰り返して登場したビン底眼鏡の朝倉は、俺の許可なく、目の前の席に腰を下ろした。
またくだらない話でも始めるのだろう。
気が散る。ゲームに集中できない。
「何だようるさい」
「いや、だってさぁ、本当に馬鹿じゃん、荻野目くんてさ」
はっきり言って、朝倉に馬鹿にされるのが一番癇に障るのだが、本人は王様にでもなったような顔で俺を見下して笑う。
確かに俺が馬鹿なのは認めるが、朝倉のようなゴミにそのようなことを言う資格は一ミリたりともない。自分の立場もわきまえず、馴れ馴れしくしすぎているのだ。
朝倉が言っているのは、萌の話であろう。
もう一週間が過ぎようと言うのに、未だことあるごとにその話を持ち出しては馬鹿にしたように矯正器具を剥き出しにしてけらけらと笑う。
これはあの日以降に朝倉から聞かされた話なのであるが、やつは、俺が萌に告白するための協力をしていたらしい。
萌に、もし期限内に俺が告白したら報酬を授けると言われ、喜んで乗ったのだと言う。
そう言われれば、色んなことに納得はいくが、このチャレンジは俺の馬鹿が災いして、見事失敗に終わった。
何度あの朝倉に笑われ、「あーあ、折角のボーナスチャンスが荻野目くんの馬鹿のせいで台無しだよ」と嫌味を言われたことか。
金が関わらないと協力しないというのもいかがなものかと思うが、朝倉に協力を頼んだ萌も萌である。