「じゃあ、この座布団座って!そこのポン酢とか使っていいからね!」

「うん、ありがとう。でも、ホントに湯豆腐なんだ・・。全然いいけど。」

リビングには小さめのテーブルがあり、その上には湯豆腐が入った鍋、湯豆腐を入れる受け皿、ポン酢、醤油など、調味料が置いてあった。

「じゃあ、いただきまーす。」

「いっぱい食べてねー!あ、ネギとか生姜とかいるんなら言ってねー!」

「うん、ありがと。」

黒崎はポン酢をかけて湯豆腐を口に運んだ。

「うん、おいしい。」

「ありがとー!わたし、湯豆腐だけは自信があるんだー!」

りんは得意げに言った。湯豆腐なんて誰でも作れるでしょ。

「そういえば、吉岡さん、親は?吉岡さん起きてるなら親もおきてるでしょ。」

もしかしたら、他人には言えない複雑な家庭の事情とかがあるかもしれないのに、馬鹿な黒崎は気遣うという選択肢があることを知らない。

だがりんは、何のためらいもなく答えた。

「あー、親なら今多分外国にいるよー!わたしが6才のときにリストラでもされたのかな~?いきなり家から出てっちゃんだー!」

黒崎は絶句した。聞いてはいけないことを聞いてしまった。

だが、りんは構わず、明るく喋り続けた。

「でも、ちゃんと生きてはいるし、仕事もしてるらしいよ!!月1で、仕送りも来るし!今は多分イギリスあたりにいるんじゃないかな?だって先月のお土産が紅茶だったし!」

黒崎は驚きながらも、こう返した。

「あ、ああ・・・そうなんだ・・・。ほかには誰かいないの?玄関に靴が吉岡さんの合わせて2足置いてあったから。」

「ああ、あれは弟のだよ!今は弟と2人暮らしなの!」

「え?吉岡さん弟いるんだ。」

「うん、今中2-。」

そんな話をしてると、2階から階段を降りてくる足音が聞こえた。

その足音の主はリビングのドアを開け中に入ってきた。