「ご馳走さまです。」
会計を済ませると、
マスターはハンガーからコートを外して…それを手渡した。
少しだけ、手が触れて…
生温かさが、伝ってくる。
「冷え性ですか、手が…冷たい。」
「……いえ、違います。」
「手袋した方がいいかもしれませんね。今夜は、冷えるそうですから。」
「………。……そうですね。」
心にもない返事を…返した。
この店は……ゆっくりと時が流れるようだった。
喧騒に押し潰されそうにも…ならない。
見たくないものも…見えない。
綺麗な思い出だけが…
湯気と共に流れて来る。
そんな……感じだ。
「……お店…、クリスマスもしてますか?」
「ええ、もちろん。」
「……。そうですか……。じゃあ、また来ます。」
「はい、またのお越しをお待ちしています。」