「1名様ですか?」
マスターは私の背後にチラリと目をやって。それから…静かに、そう問い掛けた。
少しだけ…苛立ちを覚える。
見れば、分かることでしょう?
「――…一人です。」
「どうぞ、こちらのお席へ。」
マスターが、カウンターから出てきて。
椅子を…引いてくれた。
「…コートをお預かり致します。」
大きくて無骨な手は、意外なほど、しなやかに…、器用にハンガーへと掛けて。
「今年は雪降るのが…早いですね。外は寒かったでしょう?」
当たり障りない挨拶言葉で…歓迎する。
「……。そうですね。」
クリスマス前なのにね、って、つい言いそうになって。
言葉を…飲み込んだ。