どんなに知らない街にいたって、
どんなに下を向いたって。
逃れられないことは…知っている。
手袋をしない手は…真っ赤になって。
次第にその感覚を…失っていた。
路地を曲がって、
レンガで出来た、小さなカフェが…目にはいった。
イーゼルに立て掛けられた看板にも、
店先にも、
イルミネーションや、クリスマスの装飾も見当たらなくて……。
【女性おひとりさま、大歓迎】
なんて…
この時期にそぐわない文字が、刻まれている。
「………。珍しい。」
こんな看板では…かえって独り身を象徴するみたいで、
客も入りにくいだろうに。
ちょっとした好奇心と……
現実逃避したくなる気持ちと。
惹き付ける要素は…色々あったかと思うけれど。
その、確固たる理由は……思い出せない。
重たい木の扉を開けると、大きな暖炉が…パチパチと音を立てて。
カウンターだけの、小さな店内に……
珈琲の匂い。
「いらっしゃいませ」って…、マスターらしき若い男性の、穏やかな声が。
私を…ふわりと包んだ。