《伊月side》
記憶が掠れるほどの幼稚園の時。
久しぶりに父親と母親が海外から日本に帰って来た。
母親のこと大好きだった小さい俺。
そりゃあ、嬉しいことこの上ないほど。
「ただいま伊月!元気にしてた?寂しかったでしょ~?ごめんね」
「別に……寂しくなんかねぇもん……」
「柳田さん。伊月はヤンチャだから迷惑かけましたね……すいません」
「奥様、伊月様はとても立派ですよ」
家では母親と柳田にしか俺は心を開いてなかった。
父親には……話し掛けられなかったんだ。
子供ながらに近付いちゃいけねぇ……そんな勘が働いたから。
「さ、伊月。お父様のところに行こっか!」
「行かない……。絶対に行かねぇ!」
「わがまま言わないで?ほら、母さんと行こ?」
「母さん一人で行けよ……」
それくらい父親が苦手だった。
もちろん、今も苦手。