菫ちゃんは形のいい唇をゆっくり開く。
「私は……家のためなら伊月と結婚するつもりよ」
「もしも婚約が破棄されたら?」
「………大和のところに走るでしょうね」
なんでそんなに苦しそうな顔するの?
自分の恋に……気持ちに正直になれないの…?
「まっ、一般市民の貴女には分からないことね。……家柄が恋の枷になってるなんて」
「恋の枷……?」
「簡単に言うと、大好きだけど本気の恋をすると家柄が邪魔してツライだけ……。伝わった?」
「それ……切なくないですか?」
あたしの質問に菫ちゃんは答えてくれなかった。
でも………きっと、今話してくれたことが菫ちゃんの本心なんだよね。
あたしまで胸がギュッと締め付けられる気持ちでツラくなる……。
「そうゆうことだから。……貴女もあまり伊月のこと本気にならない方がいんじゃない?」
その言葉だけを残して、あたしの耳には菫ちゃんのヒールの音だけが響く。