バネは小さいくせに、ちょこまかと足が早い。


やっと追いついたころにはすっかり俺の息は上がってて
ブレザーを脱ぎ捨てて、草地にうつ伏せに寝そべるが、
隣に座っているバネは、少しも息を乱していない。


「渋沢、見ろ。」


寝転がったまま首だけ動かし、バネの指が示す方を見る。


そこには
石の転がる河原と土手の坂道の間の平らな草地を、少し盛り上げるように
40センチほどの背丈のコスモスが集まり、緑の葉の間に薄紫の花をつけていた。


「コスモスは日本じゃ秋桜などとも言ったりして
乙女の真心なんて言う花言葉まで与えられてるたおやかな花らしいが、
元々はメキシコ出身の、なかなかにタフな奴らなんだ。」


花の方を見つめ、草だらけの小さな背中を向けたまま
話すバネ。


「タフ?」


「うん。
嵐に倒されても枯れずに折れた所から新芽が出るし
一枝もって帰って庭の土にでも挿しておけば、そこから育ち広がって行く。」


つぶやくように聞いた俺に答えながらも
バネの話は続く。


「そして、渋沢も気づいたように
コスモスと言う名前は宇宙を意味するギリシャ語のコスモスと同じ。」