たしかに土手滑りに向いていると言うことは否定しないけど、
急だとは言え、ふかふかと草の生えた地面は歩けないほどではない。


「歩くのか?
だったら走ろう。」


が、と言ったバネは
まだ返事もしていない俺の片手を取り
坂に向かって迷わず駆け出す。


ちびなバネに引っ張られることで前屈みになった俺の体は
バネがスピードを上げて下り坂の先を行くことで、ますます傾いていく。


それでも最初はなんとかバランスをとっていたのだけど、
草に足を取られたのか、バネがこけた衝撃で
二人まとめて頭から斜面の下に向かって転がりだす。


「お、おい。
このバカが!」


そして
俺が苦情を叫んだ時には
俺たち二人は、すでに草まみれで坂の下に転がっていた。


「渋沢、無事みたいでよかったな。
でも、私はバカじゃなくてバネだぞ。」


遠慮がちに、それでも笑ったバネが身を起こすと
その肩を捕まえて、デコピンをかましてやる。


「こんなアホ、バカで十分だ。」


「う、何する渋沢!」


ますます笑いながらも
俺の腕からするりと抜け出したバネは駆け出す。


「待てよ、バカ!」


「バカじゃない、バネだ!」