「ん?もう昼なのか。」


空を向いたまま見開かれたねこ目は、一瞬後にはまぶしそうにすぼまる。


やっぱりだ。
バネが口を開くと、何気ない言葉に俺の思考は
バネの世界へ巻き込まれて行く。

「俺が学校出た時に12時半くらいだったから、
たぶん1時ちょい前ってとこだろ。」


「そうか。そういえば日もずいぶん高くなったな。」


バネは土手の坂道に張り付くように、バンザイした腕を伸ばす。


「メロンパン好きか?」


片手に持った購買の袋を持ち上げて見せる。


「最近めっきり食べなくなったのだが、嫌いじゃないぞ。」


言い回しは高飛車にも聞こえかねないのに
掲げた袋を見返す瞳は素直すぎるほどきらきら輝いている。


「よかった。嫌いじゃないなら、半分やるよ。」


これでもかってほどぱっと輝きを増した表情に思わず吹き出しそうになるのをこらえて、
パンの袋を開け、半分にちぎり、袋に残った方を、バネの腹あたりにぽんと投げる。


「渋沢の昼食を略奪したようで悪いな。」


そう言いながらも、キャッチしたメロンパンを大切そうに包み込む両手は
今更俺が何を言っても、それを死守する意志をはっきりと示しているようだ。