「渋沢はやっぱり頭が弱いんだな。」


わざとらしく同情するような表情は
いたずらを仕掛けた幼稚園児の作るポーカーフェースくらいの水準で
失敗作だ。


「朝言ったじゃないか?
土手の下にコスモスを見つけたんだ。」


それでも自信たっぷりな様子のバネに
やっぱり笑みがこぼれずにはいられない。


「コスモス?
ああ、それで宇宙か。」


納得した俺をよそに
隣でバネは仰向けにごろりと寝そべる。


まったく、うらやましいほどマイペースな奴。


「昼食ったか?」


今朝の結衣と俺をどこまで見ていたのかとか、どう思ったのかとか
どうして昨日から急に俺に関わりだしたのかとか
学校にいない間何をしてたのかとか
聞きたいことは他にもいくらでもある。


だけど、簡単に口に出せることの選択肢は少なくて、
結局いつも、無難なことしか質問できなくなったのはいつからだったかな。


こうして
今朝感じた、他人の視線とは別次元にあるバネの世界とは
やっぱり対局にある俺自身を思い知る。