「毎度毎度、思っていたのだが」
屋敷を出てから数分が経った頃。
白猫に姿を変えたカルハは鶴嫁怪(つるかけ)を見上げながら足早に舗装されていない道を歩いていた。
「なんや」
「なぜ屋敷を出る際に、頭を下げなければいけないんだい?それは君のいう…和の習慣か」
「そんなんやあらへん。ただな、姐さんから言われとるんや。『なんに関しても重んずる気持ちは大切どすぇ。それが物でも、そこには神様が宿ってはりますもんねぇ』。
ほんなら、僕は姐さんの言葉に従うだけやさかい。和の習慣やとか…そんなんとはちゃうな」
道を遮ろうとする木々の葉をよかしながら、鶴嫁怪(つるかけ)はあくまで姐さんへの愛を表す。
下駄裏にはりつく、ぬかるんだ泥や土にも気にすることなく森林の中を進んでいく一行は、とある目的で森の奥へと向かっていた。