すかさずキレそうになった鶴嫁怪(つるかけ)に物申し、踏まれているソレに助け舟を出すカルハ。
注意された鶴嫁怪は「あ。」と声を漏らして自身の下駄をよかす。どうやら少々頭に血がのぼり踏んでいることを忘れていたようだ。
下駄で踏まれた跡がくっきりとついている。
「大丈夫かい…と聞こうと思ったが、どうやら大丈夫そうだね。君はここの妖怪かい」
「あふぇ…、あい、そうですう。あちし、ここに前々から住んでる妖怪なんですがあ…、鶴の旦那ァ、あちし、何か悪いことしましたっけえ~?」
目に涙を浮かべて見上げてくるのは、妖怪・唐傘小僧(からかさこぞう)。
赤い和傘から人間の足が一本、骨組から腕が二本出ている少々見目が気持ち悪い妖怪だが、こいつの性格は悪そうでもない。
むしろ小心者で鶴嫁怪(つるかけ)を『旦那』と呼ぶ限り、下端臭がすこぶるする。
「おう。なんや、唐傘やんけ。いやなに、胸くそ悪い『気』がするもんでなあ。こうして赴いたわけなんやけど…」
「ふぇえっ、あ、あちしじゃないですようっ、それ絶対!ていうかあちしが臭いわけ…くんくん。……。泥臭い」
「ぶははッ!その臭いやあらへんし、安心せい、あんさんやあらへんで。この『気』はもっと…、えらい強い思いが籠められとんなあ」
腕の臭いを嗅ぐ唐傘小僧のてっぺんをぽんぽんと撫で、笑いを溢した鶴嫁怪(つるかけ)は、さらに森の奥を見つめる。