陽菜は、思った。―――担任の武本は、完全に怯えている、と。陽菜は、武本の声をたくさん聞いているので、よく憶えているのだ。


 また、それでいて、不気味とも感じ取れる声色だった。



 みなも同じようなことを思ったのか、帰ろうとしていた人たちも動きを止める。

 否、“ゲーム”、“参加”という奇妙な単語に反応したのかもしれない。






「あたし、行ってみよーかな」



 そう言い出したのは、高峰美琴。


 子どもっぽい、舌足らずの喋り方が特徴的で、実際、好奇心旺盛な小学生のような純粋さのある人物だった。

ふわふわとした雰囲気が漂っていて、外見も性格も可愛いため、一部の女子からは反感を買っているが、基本的には人気がある。



「え!美琴、行くの?やめた方が」



 千春が阻止する言葉を言おうとした時。



「おい、あれ見ろよ!」



 光太がある一点を指差した。クラスメイトのほとんどが反応し、一斉にそちらに注目する。



「え…、あれ矢澤さんと取り巻き達じゃん!」



 この高校には、教室に一台、大型モニターが置いてある。

 2年B組の、そのテレビの画面に映し出されているのは、靴箱で上履きを履き替えている途中の唯達だった。



『もしも、参加拒否する場合はこのようになります』



 放送が流れた。武本の声は、今度は確実に震えていた。