『…トイレ休憩をします。1度全員体育館から出てください』
明らかに、ボイスチェンジャーで低い、男の声は浮ついていた。狂気すら感じ取れる。
光太は、怒りに震えた。
一方、陽菜は物事を考えることがほぼ不可能な状態だった。
頭が回らなく、また、クラクラする。ズキズキとこめかみに痛みを感じた。フラフラと覚束ない足取りで立ち上がり、壁にもたれかかりながら歩く。
(早く…。外に行きたい。外の空気吸いたい)
「陽奈っ」
陽菜は名前を呼ぶ光太と千春に、返事もできなかった。
ただ、いつの間にか解錠された扉からいち早く、空間から抜け出し、1人でトイレへと歩く。
(気持ち、悪い。吐きそう…。)
陽菜は目の端に涙を浮かべながら、走り去った。
激しい目眩に見舞われ、とても走れているとは呼べないが。
校舎中にドタドタと激しく足音を立ててトイレへと走る。不気味なほど、人気が無かった。
クラクラして、壁にガンガン体を当てながらも一階の女子トイレに駆け込んだ。
個室のドアを乱暴に開け、便器の前でしゃがむ。