かなえは覚悟を決めたように、ゆっくりゆっくりと重たい足取りで舞台へと上がった。けれど、その時間が、永遠に続けばいいと思った。
ガタッ。
おそらく、天井から…舞台の床へとなにかが落ちる。速くて見えなかったが、物体は、ふたつだった。
ひとつは、黒くて小さな塊。
ひとつは、柄の長い木の棒。
「っ!」
かなえは絶句する。
体が大きく震えていた。足元に落ちたそれは――。
シンと静まり返った体育館。誰もが、これから起こり得る悲劇に恐怖していた。
こんなゲーム、夢だったらいい。千春は、自分の太ももに爪を立てた。
目を覚ましたら、いつも通りの日々が再開してほしい。
けれど――太ももの痛みに涙を流した。
一歩、陽菜は、かなえと羽村の方を、まるで“見なくてはならないもの”、義務のように見据える。
「ルールには、なかった、絶対舞台を見なきゃいけないって。陽菜は、目を背ければいい。その、見たくないだろ」
(…光太)
陽菜の目をジッと見つめて頭を優しく撫でてくれた光太。
そんなふたりをみて、千春の嫉妬心が再び疼いた。こんな、非常時に、なんて、罪な感情を、と恥ずかしく思った。
「たとえ、誰かがどんなにこのゲームで残酷なことをしても、誰も悪くない…」