キィィ…。



 美琴は嫌がるクラスメイトを横目に、率先して体育館の扉を開けた。施錠は、されていなかった。



 みな、沈黙したまま体育館の中に入っていく。体育館は普段と変わらなかった。


 いつも通り、舞台の垂れ幕は開いている。

 網が破けかかっているバスケットゴールだって、なんの変哲もない。



 ただ、体育館内は不気味な雰囲気で充満していた。それは、先程の凄惨な光景が先入観となってのものだが。



「寒…」



 冬の体育館の中は冷たい空気で満ちていた。思わず手と手を擦り合わせる。




『よく来てくれましたね。席順に並んで、床に座ってください』



 放送の声が、武本のものではなかった。

 ボイスチェンジャーで変えられたような、テレビで時たま見る、顔出しの出来無い人物が取材を受けている時のような声だった。


 もしかすると、武本の声なのかもしれないが、声を変える理由が見当たらなかった。



 急速に現実感が、頭を鈍器で殴られたかのように襲い掛かる。



 楽しそうな声色で、どこか怜悧で…。

 体育館の放送機器は、舞台側に設置されているのでそんなことはないのだけど、耳元で囁かれたみたいに近くに感じられて、身体が粟立った。



 クラスメイトのみんなは従順に床に座る。


 肩が震えている女子がたくさんいた。男子も明らかに様子が変で、みな不安げだ。