「おい、陽菜!」



 光太が叫ぶ。

 バッと振り向くと千春の親友の、野谷陽奈が仰向けで、腹を軽く抑えながら倒れていた。顔色が真っ青で、額には汗が浮かんでいる。

 傍には光太が駆け寄り、陽菜の肩を掴み、しっかりしろ、と声掛けしていた。



「陽奈!?」



 千春も咄嗟に駆け寄ったけど、ヒョイと、光太がいわゆる“お姫様抱っこ”をしたため、憚られた。



「こ、光太君、どこ行くの?」


 この、非常時に。


 光太は無言で教室を出る。今の状態じゃあ、光太君も危ないかもしれない。千春は止める。



 クラスの女子はほとんど泣いて怯えてる。男子も顔面蒼白になりながら、ザワザワ話し合っている。



 もう、画面に誰ひとりとして、目を向けなかった。見たくもない光景が、動かなくなった三人が横たわる姿など、見たくなかった。



「どこって、保健室連れて行く」



「そ、っか…。私も着いて行っていいかな…」






 千春は光太を追うようにして廊下に出た。



「いいけど…」



 光太は彼女…陽奈のことを好きなんだろう。千春は、とっくに勘付いていた。

 それでいて、その気持ちに陽奈は気づいていない筈だ。



「ごめんね」



 千春は…、

陽奈のことを想ってる光太のことが…。



「……っ。いや、別に…。藤沢だって陽奈のこと心配だろ?ついて行くのが普通だと思うけど」