丸い血が指先に流れる。

真っ赤な、薔薇のように染まる血。



小さく溜め息をついたあたしは、水道の蛇口を捻り血を水で洗い流した。





――百合子さんの葬儀から、あたしは桐生さんに会っていない。


…もちろん、薫とも。



何が一番最善なのか、あたしが考えた結果は

桐生さんとも、薫とももう、会わない。




それだけだった。



だけどそれが本当に最善の選択だったのか、今でもわからずにいる。




あたしの手を打ち付ける水を見つめていると

「……伊。莉伊!」

ふいに呼ぶ声が聞こえて蛇口を止め、顔を横に向ける。




「何度も呼んだんだけど…。休憩、入っていいよ?」

「…あ、うん、ごめん。」


心配そうに首を傾げる菜月に笑顔を向けて
あたしはバックヤードへと入った。




…もう、考えちゃいけない。


そう自分に、言い聞かせて。