昔の夢にも君の名前は出てこない。




赤い夕焼け空、君と私しかいないこの空間。
まだ小さい私達は母親が来るまで帰れなかった。最後に残ってしまうのは嫌だった、みんながどんどん帰って行くのに、私と君だけは毎回残っていた。

「お母さん…来ないの?」

小さくて震えた声。
ただ君の名前が知りたいから話しかけた。

「うん。」

その二文字だけで小さかった私は何故か嬉しくなった。
君の声が聞こえたから。

「一緒だね。私もだよ。お母さん、来るの遅いんだ。寂しくないの?」
「うん。だって毎回君がいてくれるもの。」

小さく笑った君の笑顔はまるで魔法がかかったみたいにキラキラしていた。
毎日毎日遅くまで私のために働いてくれるお母さん。
本当はいつも寂しかった。それでもいつも君が隣にいてくれるから、寂しくなかった。