男の人と付き合ったことは人生で一度だけ。

私は受け身で積極的にいくタイプじゃない上、かわいいわけでも美人なわけでも特別女の子らしいわけでもないから、近付いてくる人なんているわけはなくて、恋愛をする機会は他人よりも少なかったと思う。

いいな、と思う人ができても、見つめるだけで何も行動には移せないまま、今までの恋はひっそりと幕を閉じていた。


でも一度だけ、大学の頃に付き合ったことがあって。

彼は恋愛初心者の私にすごく優しくしてくれた。

でも、就職で遠距離になって1年は続いたものの、彼に新しく好きな人ができて、その恋は終わってしまったんだ。

どこかで遠距離になれば続くわけはないとわかっていたのか、寂しいとは思ったけど、泣くことはなかった。


それ以来、何年も好きな人はできなかったし、そういう話もなくて、気付けば29歳になっていた。

その間には友達の二度の結婚ラッシュとか出産ラッシュがあって。

あぁ、ラッシュに間に合わなかったな、なんて一丁前に落ち込んだりもした。

20代の楽しい時期をぼんやりと過ごしてしまって殆ど恋愛に費やしてこなかった私は、もうこれからも恋愛始め、結婚すらできないかも、と思い始めていた。

でもそれもいいかななんて諦めている自分と、周りの結婚に焦る自分の板挟みの現状。


「琴音?」

「あ、うん……」


きっとこの機会を逃してしまえば、私はずっとこのままだ。

だからと言って、絶対に結婚したいと思ってるわけでもない。

昔から“将来の夢はお嫁さん”みたいなことも考えたことはなかったし……。