***
「……次の水曜日、私が残ってもいいですか?」
「え、どうしたの。珍しい」
「いや……、あ、ほら、たまには溝田さんも早く帰った方がいいかなって。水曜日も何だかんだでいつも残ってるでしょう?」
「……まぁ助かるけど、いいの?」
「はい、大丈夫です」
水曜日に早く帰る理由がなくなった私は、直属の先輩である溝田さんに残業の申請をしていた。
家に帰ると惣介さんのことを考えてしまうから、できるだけ仕事をしていたいという典型的なパターンだ。
「……最近何かあったの?」
「え?……何も、ないですよ?」
「雰囲気変わったし綺麗になったから、恋でもしたのかと思ってたんだけど」
「!……全然ですよ?全くです!」
「……ふぅん?ま、いいけど」
探るような溝田さんの視線を感じつつ、私は必死に平静を装う。
でも、視線がやっぱり痛くて、無理矢理笑顔を作って、話題を変える。
「あっ、娘さん元気にしてますか!?何歳になるんでしたっけ?」
「え、あぁ、3歳になったばっかりなんだけど、もう私よりよく食べるの!」
「そうなんですね。3歳ってかわいい時期ですよね。やっぱり早く帰ってあげるべきですよ~」
「まぁ。そうしたいのは山々なんだけどね……」
「ぜひそうしてください!しばらく水曜日は私が残りますから」
「……そう言ってもらえるなら。うん」
溝田さんは大恋愛の末に結婚して、出産してからもバリバリ仕事をしていて、本当に憧れの先輩で。
私が持っていないものをたくさん持ってる。
もちろんその分大変なこともたくさんみたいだけど、それでも羨ましい存在。
……私には一生手が届かないんだな、って思ってしまって……
また私は無駄に落ち込む。