―――― 忘れない ――――




  山口 一樹      原  夏海






「寒いっ」

君は、首に巻いたマフラーを口元まで持ち上げ震えている。
指先は、寒さにかじかみ赤みを帯びていた。
放課後の玄関先で佇み、君は今にも雪が降り出しそうな重い雲を見上げている。
僕は、同じようにマフラーに顔をうずめ、両手は制服のポケットにしまっていた。

君と僕との距離は、二メートル。
歩幅で言ったら、ほんの四歩か五歩程度。

だけど、その距離は気が遠くなるほどの距離だった。
明日になってもあさってになっても、きっと追いつくことの出来ない距離。

君との距離が一番近いのは、待っていた君の隣へ並んだ人。
かじかむその手を大きな手で握る人。

きっと、その手は温かく。
君の冷えた手に温もりを与えているはず。

二メートル斜め後ろで、僕はそんな君と彼を見ているだけ。
歩き出す二人の背中を見ているだけ。