「うん、今、食べ終わったとこ」
僕がそう言い終わると、携帯電話から聞こえるノイズは、柊の住む街の駅名を告げた。
「マサハルさんと、ハナちゃんは元気?」
急にクリアになる音声に、柊の後ろの人ごみが、電車と共に去ったことを知る。
柊のその選択に、まだ、彼女の中に僕の居場所があることを感じた。
「うん、元気だよ」
『うん、元気だよ。二人とも柊に会いたがってるよ』
声に出して言った言葉と、言えなかった言葉。
二人をダシにして、自分の会いたい気持ちを悟られたくない気持ち。
柊を苦しめたくない思い。
言えない言葉は日増しに増え、僕の知らないどこかに静かに降り積もっていく。