「もしもし……」


僕は携帯電話を耳に当てながら、自分の部屋のドアを後ろ手に閉める。

耳に流れ込む雑踏の音。

行き先を告げるアナウンス。

駅だ。

塾の帰りだろう。


「アキラ……久しぶり……」

「うん……」


途切れ途切れに聞こえる柊の声。

どうしてゆっくり話せる、静かな場所から掛けてこなかったのだろう。

僕は、そう柊を責めようとする心を押さえ込む。


「今ね……塾の……り……もん。ア……は……飯食べ……」


『今ね、塾の帰りなんだ。アキラはご飯食べてた?』

途切れ途切れであろうが、方言であろうが、わかる柊の言葉。

いや、今までは理解できていた柊の気持ち。