家に入る。

靴を脱いでいると、キッチンからはマサハルさんとハナの楽しげな声が聞こえてくる。

僕はくすくす笑う二人の背中に声を掛けた。


「ただいま」

「おっ! お帰り!」

「アチラ、アチラ、見て! 見て!」


ハナが嬉しそうに差し出したタッパーにはなにやら怪しげなキツネ色の液体が入っていた。

キッチン中に広がる甘い匂いはこれが原因なのだろう。


「ん? ハナが作ったの?」

「ううん、マサハルさんと一緒に作ったの!」

「ふうん、これ何?」

「ないしょー! ねー! マサハルさん!」


マサハルさんは腰に手を当て、心なしか胸を反らし、誇らしげな表情をしている。

鼻の穴も真ん丸に広がっていた。


「マサハルさん」

「ん? なんだ? レシピなら教えてやんないぞ!」

「バターを使った鍋だけは洗ってね」

「うおっ!」