朝練も終わり、愛咲は1年C組へ、オレは2年A組に行く。

「一也、おはよ。」

同じクラスの谷岡啓太があいさつしてくる。

一番後ろの端っこというとてもステキな場所を見事くじであてたオレは特等席へ移動し、啓太もついてくる。

「一也、愛咲ちゃんとはどう?」

啓太は次の部長候補の野球部で、オレが愛咲を好きなのを唯一知っている人物。

「今日さ、喋った。」

オレはゆっくり啓太に報告した。

啓太は中学の時からの友達で彼女持ち。
B組の岡崎早苗だ。こいつは意外にも愛咲と仲が良く、たまに会話してるところを見る。

「愛咲ちゃんと何話したんだ?」

啓太はニコニコ、いやニヤニヤしながらオレの前の席に座り、聞いてくる。

「いや、バッティングのコツ教えてもらっただけだけど…」

「え」

啓太はびっくりして驚いた顔をオレに向けた。

「な、なに。」

オレは少したじろいで啓太から離れる。

「いや、話したとかいうからさ、もっと女子と男子の会話でもするのかと思って…」


なんだ、部活の話か、と啓太はがっかりした。

部活の話だろうが、女子と男子の会話だろうがオレには愛咲と話せたことだけで幸せだった。
幼なじみだけどなかなか話せない、それが一番の悩みどころだ。

担任が入ってきて朝のホームルームがはじまる。

「さ、く、ら。」

ゆっくりと小さく名前を口に出す。

愛に咲くと書いて愛咲。

笑顔もだけど、やっぱり可愛い。


その日は授業なんて気にならないくらい
愛咲のことを考えていた。