朝の登校は朝練の時間だから結構はやい。
7時には家を出発。
斜め前の家の愛咲がウチのインターホンを押したらオレが出て学校へ向かう。
割と家から近いオレたちの通う県立柄玉(えだま)高校は自転車で20分ほど。
あれから愛咲は選手ではなくマネージャーとして甲子園を目指すことにしたらしい。
学校について朝練をはじめる。
基本朝練は自由で、今日は素振りをすると決めてたから、バットを取り出して降り始めた。
愛咲はそんなオレをみながら放課後用の氷をつくるため、製氷機に水をくんでいた。
今は6月、3年の先輩はこれからの予選で負けたら引退というもう後がない時期だ。
相変わらず無表情の愛咲はオレが素振りする姿をジッと見ていた。
「あの、先輩」
久しぶりに愛咲からしゃべる。
「ん?なに?」
内心驚きまくってるけどここは落ち着いて返す。
「あの、えっと、バットなんですけど、もっと上から振ったほうが良くないですか…?」
さすが経験者からのアドバイス。
早速、言われたとうりにやってみる。
しっくりくる。いい感じだ。
「こんな感じか?」
オレは愛咲に聞き返してみる。
「はい、バッチリです」
ふわっと笑う愛咲の笑顔。
普段が無表情だから余計に珍しい笑顔に、オレは心の中でときめきまくった。