「ね?
陽都君、どこ行くの?」

学校を出てから数十分。

陽都君はいまだに行き先を教えてくれない。

何度聞いても「着いてからのお楽しみ」って笑うだけで…

「ん?
だから、まだないしょ♪」

私の右斜め前を歩く陽都君は、軽く振り向くと笑ってそう言った。

「……」

「そんな顔しないでよ?
だいじょぶ、変なとこ連れてったりしないから…ね?」

片目を瞑って微笑む陽都君。


…え///
なにそれ、いったい私どんな顔してたって言うのよっ…(汗)


「あー、赤くなっちゃって。
かわいいんだから」

陽都君はそう言って、パッと私の手をとり、指を絡ませるようにして繋いできた。

「…!?」

「…へへ」

ビックリしすぎて言葉が出ない私に、陽都君は無邪気に笑いかけてきた。

そしてそのまま手を繋いだまま、私たちは歩いた。

ドキン…ドキン…

高鳴る鼓動。

繋いだ手から、私のドキドキが陽都君に伝わっちゃいそうで…
変に緊張する。

そりゃあ私だって、男の子と手を繋ぐのは初めてじゃない。

だけど、いくら経験があると言っても、好きな人と触れることにドキドキするのはかわりなくて…


ていうか、陽都君はなんで私と手繋いでるんだろう…


その時、陽都君がいきなり立ち止まった。

「ほら、花恋。
ここだよ」

そう言って陽都君が指したのはゲームセンター。

「え…?
ゲー…セン?」

「そ。
ここのゲーセンのユーフォーキャッチャーね、景品が可愛かったり面白いものばっかなんだよ。
よく部活帰りに涼太と来ててさ…ほら、これもここのユーフォーキャッチャーでとったの」

陽都君は私の手をスッと優しく離して、スクバについているマスコットキーホルダーを見せてきた。

それは、かなりイカツイ顔の…

…エイ?


「……えっと…
これ…は…」

「これねー、マンボウ!!
かわいいっしょ」

ヘヘッと笑う陽都君。


あ…
マンボウ…なんだ…
…え、ていうか可愛いんだ…


私は衝撃的すぎて、言葉が出なかった。

そして、そのマンボウのマスコットから視線が逸らせず、凝視してしまった。

「あ、もしかして、それエイじゃないのかよとか思ってる?」

「えっ…
な…なんで…」

ビックリしてマスコットから顔を上げると、陽都君がケラケラ笑っていた。

「だって先週、涼太も同じこと言ってたもん!!
それ絶対エイだろって言いながら、ずっと見てたんだよ。
今の花恋みたいに。
まぁ、まずエイとマンボウは顔の位置が全然違うからさー」

ひとしきり笑った陽都君は、スッとゲームセンターの中に入って行った。

私もそのあとに着いていこうと歩き出す。

しかし。

フッと入り口付近にあるユーフォーキャッチャーに目をやった私は、その場に立ち尽くした。

…思わぬ誘惑がこんなところに。

私の視線の先には、パステルカラーのウサギのぬいぐるみが。
「…かわいい」


…どうしよう?
挑戦してみようか?
でも私ユーフォーキャッチャーなんてやったことないし…
あぁ、でもこのウサギほんっと可愛い…


ダメ元で人生初のユーフォーキャッチャーに挑戦するか、おとなしく諦めるか考えていると、後ろからポンと肩を叩かれた。

「…!」

「何してんの?
もしかして、ゲーセン苦手だった?」

「は…陽都君…」

「え、あ…ごめん。
ビックリさせた?
なかなか花恋来ないからさ、どうしたのかなって……
……もしかして、そのウサギに惹かれたの?」

私の目の前にあるユーフォーキャッチャーに視線を向けながら聞いてくる陽都君。

「あ…うん…
でも花恋、ユーフォーキャッチャーやったことないから…」

「え!?
マジかよ、今時ユーフォーキャッチャーやったことない奴いるんだな」

陽都君はそう言いながら、ズボンのポケットから長財布を取り出して、100円玉を1枚機械に投入した。

「え、陽都君…?」

「んー、ちょい待って」

慣れた手つきでボタンを操作し、アームを動かす陽都君。

そして。



数秒後、私の手には薄ピンク色のウサギのぬいぐるみが。

「あの…陽都君?
やっぱりお金…」

「いいって!!
俺が花恋に取ってやりたかったんだからさ」

さっきからこの会話の繰り返しだ。

100円を返したい私と、返されたくない陽都君。

「…でも」

「あーっ、いいって!!
金なら返さなくていいから、まじで!
だからさ、花恋がそんなにお返ししたいって思うなら、金じゃなくていーから。
今日1日、いっぱい楽しも?」

ね?と、陽都君は私の顔を覗き込む。

その笑顔を見たら、これ以上進まない口論をする気もなくなって…

「…うん」

私はコクリとうなずいた。

「ははは、イイコ(笑)
んじゃ中入ろ?
ゲーセンの音、おっきいけどだいじょぶ?」

中に入る寸前で確認してくれる陽都君。

…やっぱり、陽都君はさりげなく優しい。

「だいじょぶだよ、ありがとう」

私はウサギを両手で抱えて、陽都君に笑いかけた。

そして一緒にゲームセンターに入っていった私達。

陽都君は、シューティングゲームにハマっているみたいで、真っ先に向かっていった。

「これめっちゃハマっててさ。
ここ来る度にやってんだよね。
あっ…と…
わりぃ、バッグ持ってて?」

「あ、うんっ」

申し訳なさそうにスクバを差し出してきた陽都君。

私はぬいぐるみを右手で持ち直して、左手でスクバを受け取った。

私にバッグを預け、機械にお金を入れ終わった陽都君の横顔は真剣そのもので…



―数分後―

「っしゃあっ!!」

陽都君は、嬉しそうに声をあげて軽くガッツポーズ。

シューティング画面には「win」の文字が。

「すごいね、おめでとう!」

「おー、1回目で勝つなんて嬉しいわ」

陽都君はそう言って、無邪気に笑った。

私たちは至近距離にいながらも、ゲームセンター内がうるさいので、普段より大きな声を出す羽目に。

陽都君は慣れている様子だけど、大きな声を出したりするのが苦手な私にとっては少し大変。

「あ、バッグありがと」

「あ…うん、はい」

私からスクバを受け取った陽都君は、財布の中を確認して困ったような顔をした。

「両替しないと…
一緒に行く?」

私はずり落ちてきたスクバを肩にかけ直して、首を横に振った。

「そっか、んじゃここにいてね。すぐ戻ってくるから」

陽都君はそう言うと、私の頭をポンポンと優しく叩いて両替機の方に歩いていった。

私はフウッとため息をついて、カーディガンのポケットからケータイを出す。

すると、ディスプレイの着信ランプが点滅していた。

「…?」

ケータイを開くと、メールが1件受信されていた。

受信されたのは約1時間前。


《サボり?》


「美羽…」

私は返信画面に持っていった。


あ、でもあとで電話した方がいいかな?


結局、待受画面に戻した私は、ケータイをしまった。

その時。

ドンッ…

誰かに思い切りぶつかられ、よろけた。

その弾みで、今度は私が誰かにぶつかってしまった。

「あ…ごめんなさい…」

慌てて謝って顔を上げると、制服をだらしなく着崩したガラの悪そうな男子が3人いて、どうやら私はそのひとりにぶつかってしまったらしい。

私がぶつかってしまった男子は、2人の男子と顔を見合わせてニヤッと笑うと

「ねぇ、ひとり?
学校サボったの?
謝罪なんか良いからさ、俺らと遊ぼうよ」

そう言って、私の左腕を強く掴んだ。

「っ…いた…」

「ねー、遊ぼ?」

そのまま左腕を引かれ、出口の方に連れていかれる。

「ちょっ…やだっ…」

身をよじって抵抗するも、後ろからは男子2人に背中を押されている。


…怖い。


私の頭の中には、その2文字しかなかった。

「だいじょーぶだから、俺らと楽しいとこ行こーよ」

そしてとうとう、ゲームセンターから無理矢理出されてしまった。

「いやっ…」

私は右手でしっかりウサギのぬいぐるみを持ちながら、掴まれた左腕を引き離そうと試みる。

しかし男子の力に勝てるはずもなく…


このままだと本当に拉致されるっ…!?


「やだっ…
陽都君っ!!」