今時ヤのつく自由業の人が、そこらへんをうろうろしているとは思えないけど。
とは言わずに、せんべいを歯で砕いて、緑茶でそれを流し込む。
スカートの裾をはたきながら立ち上がると、あからさまに母親が怪訝な顔をした。
笑顔を取り繕って、教科書を詰め込んだカバンを持ち上げる。
母親が今思い出したように「勉強しいよ」と声を掛けた。
「言われんでもするわい」
「せえへんから言うてんねやろ」
ぐっ。
言葉につまる。
「……とにかく、電話は心配いらんで。テストも今日までやし、昼間はわたし学校やんか、夜はお母さんとお父さんがおるから大丈夫やろ」
「お父さんがヤクザにでかい口たたけるとでも思ってんの?」
「ははっ……。バイト行ってくる」
「行ってらっしゃーい」
ばりっ。
母親はわたしの目を見ずに、手をひらりとふって、見送った。