「環、電話に出たらアカンよ」



リビングでテレビを見ながらくつろいでいたわたしにそう声をかけたのは、母親の小西あきこ(旧姓、鮎川)だった。



「どういうこと、お母さん」



ばりっ。

醤油せんべいをかじる音が、高い天井の空気を振動させた。


じっと母親の目を見つめる。


ぼろぼろとせんべいのカスが、制服のスカートの上に落ちていった。


母親は一度、ぐっと唇を噛み締めて、言葉を紡ごうかどうか迷っている様子を見せたが、わたしの隣に腰掛けてせんべいを一枚手にとって、それを意味もなく見つめる。



「あんた、国昭おっちゃん覚えとる?」


「だれ?」


「ちょっとひと悶着あって、絶縁状態のお母さんのお兄さんにあたる人やねんけど」



ばりっ。



「なんかな、親戚の誰かを、借金の保証人にしたっていう情報が、姉ちゃんから来たから。もしかしたら、そのスジからの電話が来るかもしれんから、あんたは出やんほうがええわ」


「そのスジって、ヤーさん?」



母親が静かに頷く。