ピッ。
通話終了のボタンを押したと同時に、ヤスが部屋の中に飛び込んできた。
「もォー、なんべんも呼んどるのに、なんか返事したってーや、環姐さん!」
「うるさいねんアンタの声。誰でもムシするやろ」
「なにそれひどい!」
「で、用事は?」
「姐さんあてに、若から電話があって。珍しく家電鳴ったわー思てワクワクしながら、はいっ、大柴ですぅ! って意気込んで言うたのに第一声が『なんでお前やねん』やで! 最近、若ひどないっすか? 俺の気のせいっすか? 俺に風当たり強くないっすか?」
「気のせいちゃう?」
我が夫なりの、舎弟への愛情がどれほどのものか、ありありとわかる一言を聞いて思わず噴き出した。
その態度に不平不満を募らせるヤスを背に、洗濯物に手をかける。
《電話に出たらアカンよ》
不意に、今は亡き珍しい声が頭の中で言葉を反芻した。
口の中で「でんわ」という文字を転がす。
左手の薬指に光るリングが、太陽の光を浴びて、きらっと畳に影をつくった。